この記事は、ベイズ塾 Advent Calendar 2020 7日目の記事です。
ベイズ塾には「魁!!」がついていたころから参加しています。広島の西条に住んでいます。さむい!さむい!
最近は合宿でも発表ができていなかったったので、自己紹介・近況報告として、最近おこなった研究でも紹介しようと思います。また対面で開催できた際には、関心が似ておられる方、是非お話しさせてもらえればうれしいです。
紹介する研究は、2020年の社会心理学会第61回大会で報告したものです。
研究上の関心
「言外の意味をもちいたコミュニケーション(間接的コミュニケーション)」を研究のテーマにしています。もともと、他者の意図を理解するとはどういうことかという興味があり、コミュニケーション自体に興味がありました。
学部3年生のときに「「今日は暑いですね」と私がいったら、どうしますか」と聞かれ、「もう7月ですしね」みたいな感じで返すと、「一般的には、今の発話は要求を意味するものとして使われます」と言われ、「なん…だと…」となったのが、間接的コミュニケーションに興味を持ったきっかけです。
なぜ間接的コミュニケーションで相手の意図を理解できるのか?なぜ間接的コミュニケーションを使用するのか?どのようにして意味を共有するのか?などなどが中心的な研究関心です。
余談ですが、塾長先生は間接的コミュニケーションにたけており、とても興味深い会話例を教えてくれます。いただいた会話例で、博論の予備審査で盛大にすべってしまったのは良い思い出です。
間接的要求の承諾は自発的援助として解釈される
「この部屋寒いね」という発話に対して、聞き手が窓を開けるという行為をした際に、その聞き手の行為は「要求の承諾」として解釈するのか、それとも、「自発的な援助」として解釈されるのか、という点を検討しました。
以下では、研究のポイントを絞って紹介します。詳細は、ページの最後のスライドをご覧いただければ幸いです。
聞き手の行為についての解釈
間接的要求として解釈可能な発話の後に、聞き手の行為が続く物語文を呈示しました。例えば、次のような物語文です。
AさんはBさんと同じ部屋にいます。部屋のカーテンがあいていて、Bさんは窓際にいます。Aさんは「少しまぶしいね」と言いました。
すると、Bさんはカーテンをしめました。
そして、聞き手の行為について、以下の2つの解釈について、それが正しいと思うか、間違っていると思うかを尋ねました。
- Bさんは、Aさんに頼まれて、カーテンをしめた;「頼まれて」行為をしたという解釈が正しいかどうかを判断
- Bさんは、自ら進んで、カーテンをしめた;「自ら進んで」行為をしたという解釈が正しいかどうかを判断
これを7つの物語文で行いました。
その結果、聞き手の行為について「頼まれて行為をした」という解釈の選択率は23%で、「自ら進んで行為をした」という解釈の選択率は80%でした。基本的には、間接的要求の後の承諾行為については、要求という文脈を外れて、自発的な援助として解釈されていそうです。
単に要求意図を認識していないだけでは?
しかし、先ほどの結果だけだと「単に話し手の要求意図を認識しておらず、その結果、要求の文脈を外れて解釈したのでは?」という疑問が生じます。この研究では、①一般的な要求意図の認識率が異なる刺激を用いること、②参加者の要求意図の認識傾向を測定することによって、この点について検討しました。
参加者の要求意図の解釈傾向の測定は、たとえば、「この部屋寒いね」などの要求として解釈可能な発話を呈示して、その発話に対して、「話し手は聞き手に暖房をつけるよう頼んでいる」という解釈が正しいと思うか、間違っていると思うかを、判断してもらうことで行いました。
要求意図の解釈傾向の測定に使用した場面は、先ほどの聞き手の行為についての解釈を測定する際に使用した場面とは異なっています。しかし、聞き手の行為についての解釈を測定する際に使用した場面も要求意図の解釈傾向を測定する際に使用した場面も、すでに別の研究において、要求意図の解釈傾向を測定する課題で実施しており、それらの困難度や識別力を推定しています。
これによって、「本研究の参加者が、聞き手の行為についての解釈を測定する際に使用した場面において、要求意図の解釈について尋ねられたとしたら、どのように反応するか」についての予測をすることができます。
「頼まれて」行為したという解釈の成立率(場面別)
Figureは、各場面別に、「頼まれて」行為したという解釈の成立率を示したものです。各場面は、要求意図を認識する比率が異なっており、左から、要求としての解釈が成立しやすい順に並んでいます。具体的には、別データにおいて要求として解釈する比率は、80%, 72%, 60%, 52%, 42%, 32%, 22%でした。Fig中の赤丸とバーは、参加者が各場面の発話を、要求として解釈する確率の予測値と95%予測区間を示しています。
話し手が要求しているという認識が成立しやすい場面(左4つ)においても、「頼まれて」行為したという解釈が成立しにくいことがわかり、「話し手は頼んでいることを理解しながらも、聞き手の行為は要求の承諾として解釈しない」ということを示唆していると思われます。
間接的要求を理解するとは?
この研究の結果は、間接的要求の場合には、「話し手の要求意図を認識しつつも、聞き手の行為を要求に沿った行為ではなく、自発的な援助として解釈する」という可能性を示しています。間接的要求の理解においては、単に話し手の行為を要求として理解するだけでなく、まさに「間接的 (非明示的) に要求がなされている」ということを理解している可能性があると考えています。